知らないことは恥じゃない。聞かないことが恥だ。
COLUMN vol.04 — 2026.05.02
アパレルの仕事というのは、ほぼ一日中立っている仕事です。
お客さんが来たら接客して、来ないときは商品を触ったり、スタッフと話したり。15年間、それが当たり前でした。だから映像制作を始めたとき、最初にぶつかった壁は技術でも知識でもなくて、「机の前に長時間座っていられない」という、ものすごく地味なことでした。
勉強しようと思っても、編集しようと思っても、椅子に座り続けなければなりません。最後にそれをやったのは、高校の受験勉強のときだったかもしれません。「このままで、本当に映像制作ができるのだろうか」。正直、その不安は今でも完全には消えていません。
そのとき始めた二つのこと
今でも続けていることがあります。
ひとつは、スマートフォンなど気が散るものを視界から消すこと。もうひとつは、とにかく小さなことから手をつけることです。動画の仕事であれば、「プロジェクトを立ち上げてファイルに名前をつける」、それだけでいいと思っています。
当たり前に聞こえるかもしれませんが、この「小さな一歩」が、自分にとってはいつも大きな一歩になっています。「SLOW BUT FORWARD」というのは、そういう実感から来ている言葉です。
店長しかできない、という恐怖
アパレルで15年、店長として働いてきました。仕事にやりがいはありました。でも、どこかでずっと怖かったことがあります。
「店長ができなくなったとき、自分には何が残るのか」
会社の看板があるから成立している仕事。組織に守られているから回っている日々。そのことに気づいていながら、その先に対して、正直あまり魅力を感じていませんでした。だから「自分自身で稼げるスキルが欲しい」と思うようになりました。その中でたどり着いたのが、映像制作でした。
専門学校を出ているわけでも、長年映像を作ってきたわけでもありません。専門性という点では劣るかもしれません。でも自分には、15年間かけて磨いてきたものがあります。毎日現場に出て、お客さんと向き合い続けた中で身についた「相手が何を求めているかを探る力」です。これだけは、少し自信があります。
聞くことに8割を使う
映像の仕事でクライアントと向き合うとき、自分が一番大切にしていることがあります。
「聞くこと」に8〜9割の時間と意識を注ぐ、ということです。
自分が持っているスキルや実績をアピールしたくなる気持ちはわかります。でも、相手が本当に求めているものを理解できていなければ、どれだけ技術があっても届かない気がします。アパレル時代の接客でも、同じでした。上手い人は、話す前によく聞いていました。
もうひとつ。自分が解決できないと判断したときは、正直にそう伝えることにしています。「自分にはできないけど、こうしたほうがいいかもしれない」と。商談にならない話をすることも、ときにはあります。でも長い目で見ると、それが信頼につながってきた気がしています。
フリーランスになって気づいたこと
会社を辞めてから、どれだけ組織に守られていたかを痛感しました。
見積書の書き方も、請求書の出し方も、確定申告のやり方も、何もわかりませんでした。税制の仕組みも、ちゃんと理解できていませんでした。vol.01にも書きましたが、フリーランスになってはじめてわかることが、本当にたくさんありました。
ただ、アパレルのときは「部下に弱みを見せてはいけない」という感覚がどこかにありました。今は少し違います。全部の責任は自分にあります。失敗したなら自分が変わればいい。そのシンプルさが、むしろ気持ちを楽にしてくれている気がします。
知らないことは、聞けば解決していく。聞かなければ、ずっとそのままになってしまう。
昔からある言葉ですが、フリーランスになってから初めて、この言葉の重さを実感しました。
金子浩之 / TINY PERK 横浜市金沢区を拠点に、映像制作者として活動しています。 アパレル業界15年→2023年フリーランスへ転身。妻と娘と3人暮らし。